遺産分割ってどうやるの?
相続が開始して相続放棄も限定承認もしないままに3ヶ月が過ぎると、相続を単純承認したことになり、被相続人が死亡時に有していた一切の権利・義務を、相続分に応じて相続人が共同相続することになります。この遺産の共有状態を解消して、個々の財産を各相続人に分配し取得させる手続きを、遺産分割といいます。
そこに遺産の分割方法の指定がされている場合には、それに従うことになります。しかし、遺言にすべての財産についての分割方法が指定されていれば問題ありませんが、分割方法の指定のない財産については、やはり相続人全員の話合いで決めなければなりません。
遺言がない場合や、遺言で相続分の指定のみをしている場合、あるいは、遺言から洩れている財産がある場合には、共同相続人の間の協議で決めます。相続人全員の合意があれば、必ずしも遺言による指定相続分や法定相続分に従う必要はありません。また、ある人の取得分をゼロとする分割協議も可能です。
相続開始後であればいつまでにしなければならないという期限は特になく、被相続人が遺言で分割を禁止していないかぎりいつでも自由に分割を請求することができます。 しかし、あまり時間が経ちますと遺産が散逸したり、相続の権利のある関係者が増えていくなど、複雑になってきますの で、なるべく早い時期に分割協議を行うべきでしょう。
話し合いがこじれる原因として、よく主張されるのは「特別受益」や「寄与分」、「相続財産の価格評価」です。
相続財産といっても、種々の形をしています。遺産分割にあたっては、その評価額の合意をする必要があります。
金融資産については、原則として額面で、株式は取引価格によります。非上場株式や不動産については、意見が対立することが多いです。合意できない場合は、鑑定が必要になる場合もあります。
相続人の中に、遺贈や生前に贈与を受けた者があるとき(特別受益)、遺産にその贈与額等を加えたものを相続財産として評価し(持戻し)、そこから法定相続分の割合で計算をし、贈与等を受けた者は、その額を差し引いた金額が具体的相続分となります。
相続人 | 妻A(1/2)子2人B、C(1/4ずつ) |
---|---|
遺産 | 4,500万円 Bはマイホームの建築資金として、被相続人より500万円を贈与されていた。 みなし遺産は、4,500万円+500万円=5,000万円 |
具体的分け方:A | 2,500万円 |
---|---|
具体的分け方:B | 750万円(1,250万円-500万円) |
具体的分け方:C | 1,250万円 |
贈与といっても、婚姻や養子縁組のため、あるいは生計の資本としての贈与に限定されます。特に問題になるのは、「生計の資本としての贈与」です。
これは広く生計の基礎として有用な財産上の給付を意味し、例えば居住用の不動産またはそのための金銭の贈与、事業資金援助のための贈与等です。
金額的には、被相続人及び相続人の資産、生活状況から考えて、『小遣いの範囲を超え、遺産の前渡しと評価できる程度の金額』のものです。
→「具体例は特別受益のQA」 をご覧ください。
しかし、被相続人の意思が、ある相続人を特に優遇するつもりなら、このような意思を優先して持戻しの加算をしないことになっています。
これを持戻し免除の意思表示といいます。
ここで、被相続人の配偶者についてですが、一定要件の下、この持戻し免除の意思表示が推定される場合があります。婚姻期間が20年以上である夫婦の一方の配偶者から他方の配偶者へ、居住用不動産を遺贈または贈与した場合です。
相続人の中に、生前の被相続人の財産の維持・増加につき特別の寄与をした者があった場合、遺産からその寄与分の金額を差し引いたものを相続財産として、そこから法定相続分の割合で計算をし、寄与をした者は、その相続分に寄与分を加えた金額(具体的相続分)を相続できることになります。
相続人 | 妻A(1/2)子2人B、C(1/4ずつ) |
---|---|
遺産 | 4,500万円 Bは被相続人の事業資金として総額500万円を援助した。 みなし遺産は、4,500万円-500万円=4,000万円 |
具体的分け方:A | 2,000万円 |
---|---|
具体的分け方:B | 1,500万円(1,000万円+500万円) |
具体的分け方:C | 1,000万円 |
寄与分が認められるには厳しい要件があります。特別の貢献と言われるところです。
相続人による寄与行為であって、それが「特別の寄与」と評価できること、被相続人の財産の維持または増加があること、そして寄与行為と財産の維持・増加との間に因果関係があることです。
寄与分にはいくつかの類型的な形があります。
→「相続コラム」 をご覧ください。
遺産の種類にはいろいろありますが、具体的にどのように分割されるのでしょうか?預貯金だけの場合には、協議で決まった割合で分けます。協議書や戸籍謄本など、金融機関が必要とする一定の書類を提出して、解約することができます。では、不動産と預貯金がある場合はどうでしょうか?
※いずれの場合も相続分に応じるよう預貯金や手持ち資金で調整する場合があります。
遺産分割調停を申立てます。
遺産分割は、遺産を構成する個々の財産の権利者を確定する(遺産を分割する)手続ですが、分割方法を決める前に解決しておく問題があります。
(1)相続人の範囲、(2)遺言書の効力又は解釈、(3)遺産分割協議(書)の効力、(4)遺産の帰属等です。そのうち、性質上合意可能な事項であり、かつ相続人間で合意が成立するのであれば、前提問題も含めて調停手続での解決ができます。
→「コラム相続関連訴訟」 をご覧ください。
また遺産分割と付随して問題になる法的紛争があり、相続人全員の合意があれば、調停手続の中で解決していくことも可能になります。
→「相続財産Q&A」 をご覧ください。
①相続人の範囲を確定→②相続分を確定→③遺産の範囲を確定→④遺産の評価→⑤具体的な相続分の算定(特別受益や寄与分の処理はここ)→⑥遺産分割方法の決定
相続人全員が最終の段階まで合意に達すれば、調停成立(調停調書の作成)です。
*この調書は、不動産登記や預貯金の解約の際に必要になります。
一方、話がまとまらなければ(調停不成立の場合)、審判手続に移行します。これまでの種々の事情を考慮し、また当事者に対し主張や裁判資料の提出の機会や反論の機会を保障し、裁判所による当事者の陳述聴取、事実の調査等がなされ、審判という形で裁判官の判断がなされます。これに不服があれば、高等裁判所に即時抗告することもできます。
≪認知訴訟後に協議に参加して遺産を取得≫
依頼者は婚姻外で設けた未成年の子の母であり、子は認知されていなかった。子の父が亡くなり、子に相続人として遺産を取得させたい。
解決
証拠等の準備をし、死後認知の裁判をして実親子関係を形成させた後、遺産分割協議に参加して相続分の遺産を取得した。
コメント
未成年の子が分割協議に参加するためには親権者が代理人となるが、数人の子がいる場合は、特別代理人を裁判所に選任してもらう必要がある。たとえ法定相続分であっても、形式的に利益相反関係にあるため。また平成25年、民法900条4号但書前段が削除され、非嫡出子と嫡出子の相続分の差が無くなりました。
≪被相続人の後見人から、相続人を探し遺産分割したい≫
被相続人は、子や夫が先に亡くなり孫がなく、その後見人から遺産を分割したいという依頼があり、第3順位の相続人である兄弟姉妹を探すことになりました。
解決
被相続人の両親(故人)が再婚されていた等の事情があり、兄弟姉妹の多くは故人であり、相続人として、甥や姪、異母妹であることが判明し、法定相続分での不動産売却金を分割。
コメント
代襲相続は甥や姪までで、その子どもは相続人にはなりません(再代襲相続しない)。再婚前の連れ子は養子縁組しない限り子として相続人ではありません。
≪不動産の評価、分割方法≫
遺産である不動産に、一部の相続人が居住している不動産、空き家となった被相続人の自宅不動産、賃貸不動産を含め、不動産の分割方法がその評価と絡めた大きな対立点。
解決
居住の利益などを問題にしながら、賃借人と明渡し交渉をし、全ての不動産を売却、その他預貯金や相続開始後の賃料、遺産管理費(固定資産税など)の精算を含めて調停で全て解決。
コメント
不動産の分割方法の順番は、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の順番であるが、相続人の一部が居住している場合には、代償分割を希望するものの、代償金の準備ができない状況であると、任意の売却(換価分割)で解決する場合が多いようです。
≪様々な相続財産があった事例≫
亡両親の2つ分の遺産分割調停の中で、様々な相続財産(不動産、貸金債権、ゴルフ会員権、相続債務、貸金庫契約、祭具等)があり、解決には相続人の協力が必要な事案。
解決
一人の相続人が申立人へ続分の譲渡をして調停手続から脱退(排除)、その後も相続人相互の感情的な対立が激しかったが、不動産を売却(換価分割)するなどし、各自の取得額が具体的になると同時に各相続人の協力を得ながら裁判外で解決した項目もあり、ようやく調停が成立。
コメント
貸金庫については、事前に銀行側に戸籍謄本で相続人を確認してもらい、印鑑証明書を示した後、相続人立合いの下(立ち会えない相続人には委任状を書いてもらい)開扉した。
≪早期に遺産分割協議の成立≫
不動産が主たる遺産であり、法定相続分での分割ではないが、相続税申告との関係で早期に協議が成立し、現物分割をして相続登記を終了した事例。
解決
協議段階で成立した。
コメント
遺産分割協議自体に期限はないものの、被相続人と同居の相続人に小規模宅地減税の適用ができることもあって、早期に現物分割での協議が成立した。
≪行き来のなかった子に生命保険金≫
婚姻・離婚を何度か繰り返し最後は一人暮らしをしていた兄が亡くなり、相続人を探してほしいとの妹から依頼。財産として、共有状態の借地権(亡母の相続の際、兄妹の共有のまま)や生命保険金があった。
解決
戸籍謄本や附票を取り寄せ、相続人として子2人と連絡を取り、借地権は地主に買取ってもらい、子2人と妹で売却金を分割(換価分割)し、生命保険金は、2人の相続人が相続分の割合でそれぞれ請求権があることを確認した。
コメント
保険契約者が死亡保険金の受取人を「相続人」と指定。この場合、生命保険金請求権は遺産分割の対象財産ではなく、それぞれの相続人の固有の権利になります。また、民法427条の「別段の意思表示」があるものとして各保険金受取人は、法定相続人の割合による権利を有します。(最二小判平成6年7月18日)